微量の薬剤を精密に投与したり高濃度の薬剤を投与する(微量投与で作用する薬を投与する)必要がある患者に用いられるME機器です。シリンジポンプを使って投与される薬剤は、微量な誤差によっても命にかかわるような大変危険な薬剤がほとんどで、その取り扱いについては細心の注意が必要となります。搬送時は設定その他は全て医療従事者によって行われますが、設定にかかわるレバーや操作ボタンに触れたりしない様十分注意するのはもちろんのこと、搬送機材への設置(着脱)時や車への搬出入時には特に細心の注意を払う必要があります。
■シリンジポンプ使用に当たっての注意点
①車中にて使用する場合、電源はかならずアース付きの正弦波インバータを使用。内蔵バッテリの使用可能時間は機種・電池の劣化度合いで異なるので、移動時等AC電源の取れない場合のみの使用に留めること。
②シリンジポンプは輸液ルートの患者側接続部と同じ高さで設置すること。
→薬剤が急速に投与されるサイフォニング現象を防止するため。
③万が一ぶつけたり落としてしまった場合、外観的に異常が見られなくても使用不可
となりますので機器の設置・固定時には特に注意のこと。
シリンジポンプには万が一の場合を知らせるアラーム(警報、ブザー)機能があります。我々非医療従事者ではどうしようも出来ない項目ですが、その時に慌てない様に、シリンジポンプのアラーム対応について確認しておきます。(判断及び対応は医療従事者に委ねます)
■シリンジポンプ各アラームの原因と対応
①閉塞アラーム:輸液ルートが何らかの原因で遮断され輸液が送られていない状態。
(原因)輸液ルートが閉塞→a)三方活栓部や輸液ルートの屈曲・圧迫など閉塞部確認する。b)輸液ルートの三方活栓やクレンメを閉じ、シリンジポンプのロック式延長チューブを外し、高くなった内圧を逃がす。(ボーラス注入の防止)
c)再接続し、閉塞部を開放する。
②残量アラーム:薬剤の残量が少なくなった状態。
(原因)シリンジの薬剤残量が少なくなったため→継続して薬剤を投与する場合は事前に別のシリンジに薬剤を準備しておく必要がある。(病院内では状況によって複数台のシリンジポンプを用意し計画的に交換する場合もある)
③閉塞+残量アラーム:薬剤が完全に注入された状態。
(原因)シリンジを押し切り全薬剤を注入し終わったため→継続して薬剤を投与する必要がある時は次の薬剤を計画的に準備しておく。
④押し子/クラッチ外れアラーム:シリンジの押し子やクラッチが外れた状態。
(原因)シリンジのセット不良など→輸液ルートの三方活栓・クレンメを閉じてシリンジの押し子をセットし直してから三方活栓・クレンメを開通させ再開。
⑤シリンジ表示ラインの点滅:シリンジ設定不一致
(原因)使用されているシリンジ型と設定された型が異なる為→適合する型のシリンジを使用する、または設定値の確認。
なお、搬送時における車内でのシリンジポンプの設置場所は、極力患者側接続部と同じ高さで設置することとなります。当社で使用するストレッチャーの場合、車入時のレイアウトスペースの都合上、右写真の位置にストレッチャー車載完了後に設置しています。また、車の振動や予期せぬ大きな揺れ、体動等、万が一に備え(長距離搬送では特に)予備の輸液ルートを確保して頂くことも必要かもしれません。
☆おまけ講座:シリンジポンプに関係する基礎知識☆
■シリンジポンプ仕様概要(テルモTE-331Sの場合):
・消費電力:AC時/16VA、DC時/7.5W、内蔵バッテリ(Ni-Cd電池)連続使用時間/約3時間(流量5mL/hでの連続送液、周囲温度25℃、新品バッテリ満充電時)
・セルフチェック機能:全ランプが3回点滅し動作インジケータが赤・緑の点滅を繰り 返しブザーが鳴る。(機種により異なります。)
・外形寸法:322(幅)×114(高さ)×115(奥行)mm、重量1.8Kg
■とっても危険なサイフォニング現象:
患者側接続部よりシリンジポンプが高い位置にあると、万が一シリンジの固定が不完全だったり外れてしまった場合、その高低落差により薬剤が大量注入されてしまうこと。
参考動画:九州大学病院看護部
シリンジポンプの安全な操作と管理 1-10サイフォニング現象
■とっても危険なボーラス注入:
内圧が高いまま閉塞を解除すると一気に患者へ薬液が注入されてしまうこと。輸液ラインのチューブ屈曲、クレンメの開け忘れ、フィルターの詰まり等により閉塞状態が発生した場合、輸液ラインの出来るだけ下流をクランプしてから輸液ラインの内圧を開放し、その後閉塞の原因を取り除いてから開始する必要がある。
■シリンジポンプを用いる主な投薬剤:
・カテコールアミン(昇圧剤):過量・急速投与により急激な血圧上昇、それに伴う
出血や頻脈、不整脈を起こす。イノバンなど
・硝酸薬(血管拡張剤):過量投与による血圧低下を起こす。ミリスロールなど
・カルシウム拮抗剤(降圧剤):強力な降圧効果(血管拡張)を有し、過量投与で低血圧を起こす。ヘルジピンなど
・インスリン:正確に投与されないと低/高血糖が起こる。ヒューマリンなど
・抗不整脈薬:期外収縮(異常な刺激によって心臓が本来の周期を外れて早く収縮
する不整脈のこと)に対して投与される。局所麻酔薬なので過量投与で血中濃度が
上昇すると中毒症状が起こる。(不安・興奮・多弁・意識消失・全身痙攣など)
重篤化すると呼吸停止・血圧低下・徐脈・心室性不整脈が起こる。キシロカイン等
・鎮静剤:過量投与で低血圧・呼吸抑制・覚醒遅延が起こる。
・抗がん剤
・抗凝固剤
(旧ブログ2014年06月22日作成記事の転載)